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栗村修のワールドツアーへの道

KURIMURA's Blog

トレーニングの見える化

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TOJやレース解説の現場に立っていると、ここ10年ほどで大きな変化を感じます。

ひとつは、世界トッププロ選手の若年齢化です。ツール・ド・フランスをはじめとするワールドツアーレースでは、20歳前後の選手がいきなり好成績を収める姿が目立つようになりました。かつては、プロ入り後に経験を積み、20代半ばから30代前半にかけてピークを迎えるのが一般的でしたが、いまや各チームのエースが20代前半というケースが珍しくありません。

もうひとつは、日本のホビーレーサー、特にヒルクライムを中心とした社会人レーサーのレベルアップです。こちらはむしろ中年層の活躍が目立ちます。例えば乗鞍や富士ヒルといった大会では、30〜40代の選手が驚異的なタイムを出す姿も珍しくありません。

この「若返る世界のプロ」と「強くなる日本の社会人レーサー」の対比は、いまの自転車競技のトレンドを象徴しています。

科学とテクノロジーが後押し

この背景にはいくつかの要因があります。

まずはトレーニング科学の進化。心拍ゾーン、乳酸閾値、VO₂max、リカバリー指標など、これまでトップ選手しか活用していなかった概念が、いまやアマチュアにも当たり前のように浸透しています。科学的に裏付けされたメニューを実行することで、短期間で効率よくパフォーマンスを引き上げることが可能になりました。

次にニュートリションの進化。糖質とタンパク質の摂取タイミング、リカバリードリンク、さらにはサプリメントの適切な活用など、食事や補給の考え方も飛躍的に発展しました。ネット通販などで簡単に手に入ることもあり、一般のライダーも世界基準の栄養戦略を再現できる時代になっています。

さらに大きな要素が、パワーメーターやスマートウォッチの普及です。強さや体調を数値で「見える化」できるようになり、以前は経験や勘に頼っていた部分が、客観的なデータとして把握できるようになりました。もはや「今日はなんとなく調子が良いor悪い」ではなく、「昨日の睡眠や栄養がデータとしてどう影響しているか」を確認しながら練習ができるのです。

「経験」から「可視化」へのシフト

かつては、強くなるためには時間(経験)を積むことがとても重要でした。レースの数、トレーニング量、失敗の積み重ねなど、それらが自己管理や栄養知識などにつながり、最終的にパフォーマンスへ反映されていました。

しかし現代は、経験をデータが補完してくれる時代になりました。パワーメーターが走力を数値化し、AIやアプリが食事やポジションを提案し、スマートウォッチが体調をモニターしてくれる。まさに「経験の代替ツール」として、短期間で効率的に成長することが可能になったのです。

これこそが、若い選手がツール・ド・フランスでいきなり総合を狙えるようになった背景でもあり、本格的な競技経験がない日本の中年ライダーが世界に匹敵するパワーウェイトレシオを叩き出す理由でもあります。

環境格差の縮小

以前は「強豪国に生まれた」というだけで大きなアドバンテージがありました。豊富なレース機会、整備された育成システム、栄養やトレーニングに関する先進的な情報などなど。

しかし今は、ネットやアプリを通じて、誰でも世界最高水準の知識やアドバイスにアクセスできます。さらにはAIによるバイクフィット診断やオンラインコーチングまで登場し、環境による格差は急速に小さくなっています。

もちろん、本場でのレース経験には依然として大きな強みがありますが、それ以外の「情報格差」や「環境格差」は年々薄れつつあります。

日本のホビーレーサーの強さ

特に興味深いのは、日本の社会人レーサーの進化です。

・ガジェットやデータ管理を「趣味×ゲーム」として楽しむ文化
・経済的に最新機材やサプリに投資できる余裕
・仕事や家庭と両立しつつも、効率重視で強さを追求できるライフスタイル

こうした背景から、社会人でも驚くほど高いパフォーマンスを発揮するレーサーが増えています。まさに「楽しみながらアップデートできる時代」。それは健康維持や生きがいとしても大きな価値を持っています。

結論「誰もがアップデートできる時代」

世界トップの若手と日本の社会人レーサー。立場も年齢も異なる両者に共通するのは、「効率的に経験を補える環境が整った」という事実です。

残された差は、本当の意味での「経験」です。大舞台での勝負勘や長期的キャリアに裏打ちされた強さは、依然として貴重であり、数値だけでは埋められない部分です。

それでも、誰もが強さをアップデートできる世の中になったことは、自転車競技の裾野拡大や持続的発展につながる大きな希望ともいえます。

TOJの現場でも、世界の若手選手の躍進と、日本の社会人レーサーの健闘という両輪が見られます。改めて、「自転車競技は時代とともに進化している」と実感しています。

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