選手の立場、主催者の立場

ロードレース界でひとつのやり取りが話題になっています。
絶対的王者、タデイ・ポガチャルが、ジロ・デ・イタリアとブエルタ・ア・エスパーニャの開催時期について、「入れ替えるという選択肢はどうだろうか」と提案したことをきっかけに、さまざまな意見が出てきています。
彼の問題提起はとてもシンプルなものです。ジロは山岳コースで雪の影響を受けやすく、逆にブエルタは猛暑に見舞われることが多い。できることなら、選手がより良いコンディションで走れる環境を整えたい。そう考えるのは、ごく自然なことだと思います。
一方で、主催者が見ている景色もあります。この提案に対して、ジロの主催者である RCS Sport は、「入れ替えについて検討する予定はない」という姿勢を示しました。この言葉だけを見ると、少し冷たく感じる人もいるかもしれません。ただ、主催者の立場に立ってみると、また違った景色が見えてきます。
グランツールというのは、単なるスポーツイベントではなく、ひとつの大きな社会システムのような存在になっています。開催地との調整、警備や医療体制、放送、スポンサー、観光、地元自治体などなど。レースは、多くの人の協力によって支えられています。開催時期を動かすということは、こうしたすべてを動かすことにつながります。
長い年月をかけて築き上げられてきた関係性や信頼を、簡単には組み替えられない事情があるのも、自然なことです。RCSの主張も、「変えない」というより、「そんな簡単には変えられない」という叫びだったのではないでしょうか。
それぞれの立場にしか、分からないものがある
選手会会長のアダム・ハンセンは、「彼らは凍てつく雪の中でのジロや、灼熱のブエルタを走ったことがない」とコメントしています。この言葉も元選手としての素直な実感なのだと思います。
実際、走っていなければ分からない苦しさは、確かにありますね。低体温の怖さ、脱水のリスク、極限状態での集中力。ただ一方で、運営する側にしか分からない苦しみや多くの事情も間違いなく存在しています。常に突きつけられる予算との戦い、もしもの時に背負う責任、決断に伴う苦しさ、そして安全と興行のバランスを取り続ける難しさなどなど。
選手と主催者は、まったく違う立場で、まったく違うプレッシャーを背負って同じレースに向き合っています。だからこそ、どちらの言葉にも簡単に白黒をつけることはできないのだと思います。
対立より、相互理解が大切
今回の話題は、「どちらが正しいか」を決められるものではありません。基本的に目指している方向は同じでも、立っている場所が違えば、見える景色も変わってきます。スポーツは、選手だけでも主催者だけでも成り立ちません。お互いの立場に少し想像力を向けることで、より良い解決策が見つかるはずです。


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